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- エンジンの冷却系統に異常があると冷却水が沸騰して噴き出す。水温計が上がる。エンジンオイルが吹き出し煙と異臭が発生するなどオーバーヒートします。オーバーヒートの原因が冷却水の不足、ファンベルトの緩み、防虫網の目詰まりであれば調整や補充で容易に直すことが出来ます。しかし、冷却回路の破損やポンプ等の故障では修理が必要となります。
・オーバーヒートの原因と対処
・防虫網(ラジエタースクリーン)の詰まり
トラクターやスピードスプレーなどの農業機械は、ラジエターフィンの詰まりを防止するためラジエターの前に防虫網(ラジエタースクリーン)が取付けられています。
虫や草(綿毛、草の種)、土埃などにより目詰まりすると冷却不足となりオーバーヒートします。
防虫網(ラジエタースクリーン)は定期的に清掃することで予防でき、特にラジエターに近い背丈の草がある場所での作業では目詰まりに特に注意が必要です。
・ラジエターキャップの故障
ラジエターキャップは加圧することで冷却水の沸点を調整する機能を持っています。ラジエターキャップが故障すると、正しく加圧できないため沸点が下がり沸騰し易くなります。また、熱交換効率が低下するだけでなく、冷却水が減り易くなります。
適合品を取り寄せ付け替えるだけで交換することが出来ます。
・冷却水の不足
ラジエター内の冷却水(LLC)が少ないと空気が冷却水の循環を妨げ冷却効率が低下してオーバーヒートし易くなります。
冷却水(水又はLLC)を補充することで直ります。
しかし、通常ラジエター内の冷却水は余り減らない構造でワンシーズン使用しても補充の必要はありません。減りが早い場合には、冷却水が減る原因の対処が必要となります。
・ファンベルトの緩み、破損
ラジエターを冷却するための空気当てるファンに動力を伝達するベルトは、経年による劣化、摩耗などの緩みや破損により十分に動力を伝達出来ないことで冷却不足となりオーバーヒートします。
ファンベルトの張りの調整、破断した場合には交換します。
・ラジエター内部の詰まり
冷却水の定期交換を行たるなどすると錆等によりラジエター内部の冷却水循環経路の一部。または全部が詰まることで冷却効率が低下してオーバーヒートします。一部詰まりなど軽微な状態であればラジエター洗浄剤(この他、自己責任でクエン酸等)を使用することで改善する場合があります。
しかし、重度の場合には修理による分解洗浄(オーバーホール)が必要となります。
・ウォーターポンプの故障
冷却水はウォーターポンプにより循環しています。ウォーターポンプが故障すると、冷却水が循環しないためエンジンが高温となりオーバーヒートします。
修理による部品交換が必要です。
・サーモスタットの故障
サーモスタットは冷却水の温度によりラジエターに送る開閉機能を持つ部品です。サーモスタットが閉じた状態で故障すると、冷却水が循環することが出来ずオーバーヒートします。
修理による部品交換が必要です。
・エンジンオイルの入れ過ぎ
エンジンオイルが規定値より多すぎると、オイルがクランクシャフトに触れて攪拌されることで高温となり、エンジンオーバーヒートします。なお、エンジンオイルはオイルゲージの上限または数ミリ程度多くてもさほど問題とはなりません。
オイルドレインよりオイルを規定値まで抜き取ります。
・冷却水が減る原因
・ラジエターキャップの故障
ラジエターキャップにより冷却水を加圧できないことで沸騰し易くなり、冷却水がリザーブタンクや外部に放出され易くなります。
適合品を取り寄せ付け替えるだけで交換することが出来ます。
・ラジエターの穴あき
冷却水(LLC)の交換を怠ると防錆性能が低下することでラジエターが腐食等により穴が空き冷却水が漏れて減少します。小さな穴であればラジエター用の補修材をラジエター内部加えることで直る場合があります。
漏れた箇所が特定できて作業が可能な場合では、専用のパテ(エポキシパテ)を使用することで補修することが出来ます。
補修材で直らず、修理する場合にはかなりの金額がかかります。
・ラジエターホースの劣化、破損
ラジエターホースが劣化すると密着性が低下して隙間から冷却水が漏れ出る。硬化してひび割れから冷却水が漏れ出ることがあります。漏れが発生したラジエターホースは交換が必要です。ホースと合わせホースバンドも交換することで直すことができます。
・ウォーターポンプ故障の原因
ウォーターポンプは経年による寿命の他、冷却水を交換しないことで冷却水が劣化(防錆性能の低下など)することでウォーターポンプが腐食による故障の原因となります。
この他、ラジエター冷却水の交換時にエア抜きが不十分や、冷却水不足によりポンプにエアーを噛むと負荷がかかり故障の原因となります。
オーバーヒートに関係する箇所
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・防虫網(ラジエタースクリーン)の詰まり
虫や埃などが多い農機のラジエター正面には、ラジエターフィンに汚れの付着する防止するための防虫網が取付けられています。防虫網は簡単に引き出せる構造で容易に掃除することが出来ます。 -
・ラジエターキャップ
ラジエターキャップは消耗品であるため劣化により故障します。キャップの刻印「0.9」が加圧する圧力で数字が大きいほど冷却水の沸点が高くなります。
刻印: 沸点[°C]
0.9: 119
1.1: 122
1.2: 123
1.3: 125
1.5: 127 -
・冷却水の不足
ラジエーターキャップを外しラジエター内部の冷却水の量を確認します。
水面が低いときには補充してラジエターキャップの直下の位置まで冷却水があるようにします。頻繁に減る場合には原因の特定が必要となります。
※エンジン始動後は高温となって危険です。キャップの取外しは必ずエンジンが冷えてから作業を行います。エンジン停止後、30分以上の経過が目安です。 -
・ファンベルトの緩み、破損
多くの農機はファンベルトが常に回っているため、経年劣化がすすむ箇所です。劣化による伸び、摩耗による痩せによりベルトが滑るなどした場合には張りの調整が必要となります。 -
・ウォーターポンプ、サーモスタット
冷却水のエンジンへの循環や、ラジエターの戻りを制御する部分です。エンジン側面や上部の冷却水の配管の付け根の部分にあります。
オーバーヒート修理後の処理
・エンジンオイルの交換エンジンがオーバーヒートすると、熱によるオイルの劣化やスラッジが発生し汚れています。オーバーヒート後は早めにオイル交換が必要となります。
・オイルの清掃
オーバーヒートによりエンジンオイルが吹き出た・染み出た場合、オイルが焼けること白煙や異臭が発生します。エンジンオイルが付着している場合には可能な範囲でオイル拭き取り等の清掃が必要となります。
・冷却水(LLC)濃度の確認
オーバーヒートにより減少した冷却水(LLC)に水を加えた場合、不凍や防錆のためのLLC濃度が低下することで冬に凍結によるラジエターの故障や、錆による腐食が発生します。適正な濃度を維持するため、希釈前のLLC原液を加えるなどして濃度を調整します。
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